ゼロ・サウンド・テクスチャー

ゼロ年代中期のエレクトロニカ・アルバムの100作レビュー。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第4回

●今回は31〜40枚目です。

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[CD]Tape『Rideau』

Rideau

Rideau

センチメンタリズムとエクスペリメンタルなサウンドが矛盾なく同居すること。そのミニマルなギターの響き、持続する音響、日常に溶け込む音響。そして、どこにも属さないミチノオト。スウェーデンのハプナよりリリースの3rd。エレクトロ(ニカ)/アコースティックの傑作。05年。


[CD]Christopher Willits『Surf Boundaries』

Surf Boundaries

Surf Boundaries

教授とのドローン作品でも知られるWillitsだが、本作ではエレクトロニカ・ポップ化。トラックの中心には美しいドローンが流れ、リズムやボーカル、グリッチ・ノイズがそれを彩っている。実に瀟洒な作品。06年。


[CD]SEAWORTHY『MAP IN HAND』

オーストラリアの3人組による作品。ギターや電子音、フィールドイレコーディング音などによって繊細なサウンドスケープが展開されていく。まさにジャケットのビジュアル通りのセンチメンタルな黄昏トロニカ。レーベルは12K。06年。


[CD]Stephan Mathieu And Janek Schaefer『Hidden Name』

環境音。古いレコードの音。ピアノなどの楽器。柔らかな電子音。人気の電子音響作家と実験ターンテーブリストによる、淡くノスタルジックな作品。時間の流れを緩やかに変えていく音響。06年。


[CD]Triosk『The Headlight Serenade』

Headlight Serenade

Headlight Serenade

Jan Jelinekとのコラボでも知られるオーストラリアのトリオの2nd。フリー・フォーキーかつトライバルな即興性と、奥行きのあるレイヤー感に満ちたコンポジションの融合が秀逸。音響ジャズ。ジャケのように夜の音。06年。


[CD]Böhm/Halle/Sell『Ozon』

Ozon

Ozon

07年にデンマークのレーベルよりリリースされたエレクトロニカアンビエント/ジャズ。硬質なピアノの響きが美しく、エレクトロニクスな音響処理の中でトランペットもアブストラクトに響く。透明感と清冽さに満ちた時間が生成されるような一枚。


[CD]Mono Fontana『Cribas』

Cribas

Cribas

アルゼンチンの天才音楽家、奇跡の2nd。浮遊感のある美しいピアノの響きに、繊細でリズミックな音響のレイヤー。ビル・エヴァンスドビュッシーが真夜中の音響空間で融解したかのような作品。まさに00年代における傑作のひとつ。07年。


[CD]sea『The Boats Are In The Bay』

The boatsの別名義ユニット。The boatsの1stアルバム(04年)制作時に録音された作品で、こちらは女性ボーカル入り。弦も効果的に使われており、その美しくも幽玄なサウンドスケープが印象に残る作品。07年。


[CD]The Fun Years『Life-Sized Psychoses』

Life Sized Psychoses

Life Sized Psychoses

ジャズやイージー・リスニングのサンプルにグリッチ/ノイズがレイヤーされる。バリトン・ギターBen RechtとターンテーブルIsaac Sparksのデュオによる、アブストラトで雲のような音響作品だ。08年。


[CD]Sylvain Chauveau『The Black Book Of Capitalism』

Black Book of Capitalism (Rpkg)

Black Book of Capitalism (Rpkg)

00年リリースの1stをtypeが09年に曲順も変えてのリイシューされた盤。ポストクラシカルのオリジンとして聴くこともできるが、ピアノ・ギター+エレクトロニクスという作品の源流としても重要だ。流れるような音楽のシネマティック。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第3回

●今回で3回目なので、これで30枚目。全体の約3割ですね(計100枚を目指しています・笑)。

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[CD]Fennesz&Sakamoto『sala santa cecilia』

Sala Santa Cecilia

Sala Santa Cecilia

のちの『Cendre』(06)のようなピアノ+電子音響作品ではなく、19分1曲の電子音響デュオ作品。楽曲全体に満ちた即興性が独特の波を生み、二人の音響を融解させている。後半に巻き起こる電子音響の渦が圧倒的。05年リリース。


[CD]Ethan Rose『Ceiling Songs』

Ceiling Songs

Ceiling Songs

人気のイーサン・ローズ、1st。ローカストより05年にアナログ盤500枚限定でリリースされた作品を、日本のheadzが06年にCD化。長尺の楽曲の中で、音の風景と質感が緩やかに変化していく。機械と温もりと未来と過去の記憶の交錯


[CD]KTL『KTL』

Ktl

Ktl

PITAことPETER REHBERGとSUN O)))のSTEPHEN O'MALLEによるユニット。現在3作目までをリリースしているが、本盤はその1st。ダーク・アンビエント・電子音響・ハード・コア・ドローンの饗宴。Editions Megoより06年リリース。


[CD]North Sea & Rameses III『Night Of The Ankou』

Night of the Ankou (Rmx)

Night of the Ankou (Rmx)

Typeからリリースの06年作品。その名の通りNorth SeaとRameses IIIのコラボレーション作品だ。幽玄な持続音が鳴り、聴く者を凍らせるドローン&サイケ作品。アルバムタイトル通りの「暗黒」な音の連鎖。


[CD]Tuk『Shallow Water Blackout』

ベルギーのアーティストの2nd。フェネス直系の電子音響作品だが、時間と層の捉え方が独特だ。ノイズとグリッチの霧の中から、幾つものサンプルが現われては消えていく。この融解するような持続感は、今聞くとかなり良い。06年の隠れた名盤。


[CD]Tu M'『Fragile Touch Of The Coincidence』

イタリアのデュオによるギターとエレクトロニクスによるポスト・フェネス的な作品。幾層もの電子音がサウンドを彩るが、最終的にギターの音響にフォーカスが当たっているように思う。ともあれ傑作。06年。ヘッズ傘下ex-po。


[CD]erikm (luc ferrari)& thomas lehn『les protorythmiques』

体調不良のフェラーリに変わり、トーマス・レンが代打した競演盤。晩年のフェラーリの素材を使い独自の時間を生成するerikmと、レンのアナログ・シンセ。音響造形。room40よりリリース。07年。


[CD]FOR BARRY RAY『NeW DAYS』

New Days

New Days

ドローンからフリージャズ風のサウンド、フィードバックギターのノイズ、管楽器の響き、そしてミニマルなピアノ曲。07年にroom40よりリリースされた夫婦デュオのアルバム。素朴さと自由と、エクスペリメンタルなサウンドが詰まっている一枚。


[CD+DVD]Pretty Boy Crossover『We Are All Drifting』

We Are All Drifting

We Are All Drifting

オーストラリアのエレクトロニカ・ユニットの07年作品。スペインの映像作家Julien Sotoによる映像を収めたDVDとの2枚組。テクノの残滓のあるフェネス系電子音響作品。薄いビートは悪くない。


[CD]Ran Slavin『The Wayward Regional Transmissions』

イスラエルran slavinによる07年作品。中東の伝統音楽にデジタル・プロセッシングを施した電子音響作品。硬めの音響処理によって、シタールなどの楽器と電子音響が交錯していく。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第2回

●また、ツイッターの方で「00年代中期の(エレクトロニカ)ディスク・レビュー」を10本ほど上げましたので、ここに纏めます。やはり「10本たまったら纏めて上げる」方式で行こう。100枚を目指します(予定・笑)。

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[CD]Daedelus 『Exquisite Corpse』

Exquisite Corpse

Exquisite Corpse

Daedelusが05年にNinja Tuneからリリースしたアルバム。モンドなサンプルにエレクトロニカ経由のサウンドと変則ビートが絡み合い耳をくすぐる。「ゴレンジャー」のサンプルに仰天。幼少期の妄想のようなサウンド


[CD]Darkel『Darkel』

Darkel

Darkel

AirのJB Dunckelによるソロ。エレクトロニクスの甘いベールに包まれた1960年代後半的サイケポップとちょっとの80年代的ポップ・フレーバー。夢みるように漂うボーカル&メロディーと柔らかい電子音が心地良い。とてもパーソナルな作風。06年。


[CD]PolaPola Meets Lyrica』

05年作品。「00年代=ゼロ年代」の転換期に登場したセカイ系トロニカ。ジャケとコンセプトとライナーは鉄壁の意思で統一されているが、音は極めて精密かつ高品質なフロア経由のエレクトロニカという異質さこそが重要だ。05年作品。


[CD]Safety Scissors『Tainted Lunch』

Tainted Lunch

Tainted Lunch

05年にscapeからリリースされた2nd。ニューウェイブからファンク、フレンチポップまで、クリック系を経由したエレクトロニカ・ポップのフルコースのランチ。でも、この人、キモはビートのリズム感だろう。どこか細野さんみたい。


[CD]Static『Re: Talking About Memories』

Re: Talking About Memories

Re: Talking About Memories

05年リリースの3rd。かっちりしたビートに、柔らかな電子音。エレクトロになるちょっと前のさじ加減で、エレクトロニカなインディー・ポップ/ロックになっている点が良い。あのRonald Lippokがゲスト参加。ファニーなジャケも良い。


[CD]Jodi Cave『Carbon Series Volume 4』

12KからもリリースするJodi Caveの07年作品。これがデビュー作か?適度なノイズと重層的な音響、楽器と旋律など、まさに00年代中期エレクトロニカの典型的な音。だが、どこかそこに収まりきれない過剰な点も。


[CD]Move D + Benjamin Brunn『Let's Call It A Day』

Move Dはハズレがない。ミニマルでダビィでアンビエント。美しい音像に適度に重い低音が心地よく響く。音響的/エレクトロニカ的な繊細さを兼ね備えた、00年代テクノの隠れ名盤。07年リリース。


[CD]Textual『Dirty South Still Life』

フロリダのアングラ・ヒップホップ・レーベルより。とはいえ音は00年代中期IDMエレクトロニカグリッチなトラックと電子音が耳をくすぐる。いかにもヒップホップなジャジーなエレピも良い。Machinedrum のリミックスも収録。07年の隠れ名盤。


[CD]Victor Bermon『Arriving At Night』

Arriving at Night

Arriving at Night

07年にheftyより。miller & fiam、harry hohnenのソロ。エレクトロニカでポストロック。ジャジーにしてアンビエント。トラック中に聴こえる薄い持続音は08年以降のドローンの時代の予兆か?個人的には何故か執着してしまう不思議な作品。


[CD]Autistici『Volume Objects』

Volume Objects

Volume Objects

冷房の利いた部屋から、窓ガラスごしに、真夏の世界を見る感覚。テーブルの上の、グラスの氷がはじけるようなカラカラコロコロした音響。涼しげなドローン。まさにノスタルジックなエレクトロニカの秀作。12K。08年リリース。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第1回

●00年代の音楽を極私的に振り返る、「ゼロ・サウンド・テクスチャー」です。

●主に05年から08年あたりまでの作品を中心に書いていこうと思います。私的には、エレクトロニカは、04年と09年あたりに大きな地殻変動/総括が起きている印象があります。では、その間の時期(つまり05年から08年)に、どんなディスクがあって、自分は何を聴いてきたかを振り返ることで、04/09問題をもう一度総括できないか、そしてひいては、00年代の音楽/音響を歴史化することにならないかと思ったのです(大げさですね・笑)。まだ直近過去であるがゆえに「歴史化」していないですからね。

●とはいえ、音楽/ディスクは、出来る限りランダムに、出来れば、それほど有名じゃないものも(笑)、気楽にセレクトしていきます。00年代の中盤、いわば「ミッド・ゼロ」の音楽/音響は結構、良かったんだじゃないかという気持ちで。

●1回、10枚ずつセレクトしていこうと思います。

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[CD]Jan Jelinek『Kosmischer pitch』

Kosmischer Pitch

Kosmischer Pitch

05年リリースの3rdアルバム。ジャズのサンプル・ループを原型を留めないほどに加工しトラックを構築しきた彼が、本作では驚愕のジャーマン・ロック化。しかし、このサイケな音像もサンプルで作られているというのだから凄い。キャリア中でも重要な一枚ではないか。音響から音韻を作り上げた音響先品。


[CD]the boats『TomorrowTime』

Tomorrow Time

Tomorrow Time

06年。ネオアコエレクトロニカ。手作り感(?)に満ちた電子音の入り方が気持ち良い。00年代中盤には「00年代初頭のカーパークやモー・ミュージックから影響を受けた」(と思える。本当のところは知りません・笑)、いわゆる「90年代のインディーロック/ギター・ポップ」経由のエレクトロニカが(地味に)リリースされていた。それが独特の「甘くセンチメンタルな空気(シーン?)」を形成していた、と思うのだが……。


[CD]Helios『Eingya』

Eingya

Eingya

06年リリースの2nd。Heliosはやはりこの盤だろう。これ以降は洗練はしたものの、その分イージー・リスニング化したのではないか。だが本盤には胸を打つ感傷的な甘さと音響的な硬さが共存しているのだ。センチメント・エレクトロニカの傑作。ジャケも名作!


[CD]Mountains『Sewn』

06年にリリースされた2nd。エレクトロニクスに、ギターのアルペジオ、ドローン、フィールド・レコーディングされた音響などが、慎ましくも、美しくミックスされた作品。森の空気のようなアブストラクト/エクスペリペンタル/インプロヴィゼーション。清冽サイケデリック


[CD]REMINDER『Continuum』

Continuum

Continuum

タウン・アンド・カントリーのメンバーでもあったジョシュア・エイブラムスによる音響ヒップホップ。音響的なエレメントが複雑かつミニマルに鳴り響きながらも、グルーブのしっかりとした強靭なブレイク・ビーツとなっている。06年リリース。


[CD]Frivolous『Midnight Black Indulgence』

Midnight Black Indulgence

Midnight Black Indulgence

ハーバード・フォロワーなFrivolousが07年にScapeからリリースした作品。ハウシーなトラックを基本にラグジュアリー&ラウンジ、エキゾチカで、しかも、どこかニセモノっぽいフェイクさが魅力的だ。細野晴臣とアトム・ハートがYMOを結成したらこうなった?かのような音楽(ほめすぎですね)。


[CD]Hauschka『Room To Expand』

Room to Expand

Room to Expand

ミニマルでピアノに、センスのいいストリングス・アレンジ。プリペアド・ピアノもポップに活用。そう、ミニマルとポップは矛盾しないで共存する。その按配が実に瀟洒だ。ファニチャーのように、身近に鳴っていてほしい音楽。ライヒよりもケージ。07年リリース。


[CD]Opiate『Objects For An Ideal Home』

OBJECTS FOR AN IDEAL HOME

OBJECTS FOR AN IDEAL HOME

01年の作品だが、disques cordeから07年リイシューされた。00年代エレクトロニカ初期の名盤である。柔らかい電子音とちょっとだけ複雑なリズム・プログラミングが素晴らしい。そのビートに遠くドラムン・ベースの残響も聴こえる。90年代のアフターアワーズ


[CD]Small Sails『Similar Anniversaries』

Similar Anniversaries

Similar Anniversaries

イーサン・ローズ在籍のエレクトロニカ・ポストロック・バンド。センチメンタルな楽曲と軽やで大胆なサウンドのバランスが素晴らしい。イーサン・ローズのハミング・ヴォーカルも良い具合。ネオアコ/フォーキー・トロニカの秀作だ。pupa好きにもオススメ。07年作品。


[CD]Sven Kacirek『The Palmin Sessions』

ジャズ・ドラマーSven Kacirekによる作品。07年リリース。グラスを叩く音などの細かいパーカッションを重ねて、手動IDMサウンドを展開している。その涼しげにしてストレンジな音響は実に面白い。数曲あるボーカル曲も良い。ミッド・ゼロの隠れ名盤。