ゼロ・サウンド・テクスチャー

ゼロ年代中期のエレクトロニカ・アルバムの100作レビュー。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第8回

●さて71枚目から80枚目です。

●8回目である今回は、「05年以降のカールステン・ニコライ=アルヴァ・ノトの作品(コラボ作品含む)」を取り上げました。一人の音楽家のみを取り上げるのは例外的ですが、近年の彼の活動は、「05年以降の電子音響/エレクトロニカ」にある有効な補助線を引くことになるはずです。さらに今回のみ例外的に、「09年、10年の作品」も入れていますが、それはシリーズ作品故にあえてそうしました。そのほうがこの時期のカールステンの作品変化を捉えることができるかと思いました。

●90年代電子音響のオリジネーターたち(ピタ、フェネス、パンソニックなど)の中で、その厳格かつマシニックなサウンドの印象と完成度とは別に、「05年以降」、そのスタイル/フォームが、最も有機的に変化してきたのは、カールステン・ニコライではなかったでしょうか。

●その集成が、あの「Xerrox」シリーズにも色濃く反映されているように思えます。坂本龍一氏とのコラボレーションも影響したのかもしれませんが、通常の「音楽」からもっとも遠く離れていたかに思えるカールステンこそが、実はもっともオーセンティックな意味で「音楽家」的資質を持っていたのでないか。初期の無機質なノト名義の作品にも不意にロマンティックな響きの残響が聴こえてきます。

●その意味で、「05年以降」のカールステン・ニコライの活動は、とてもクリティカルであり、それゆえに非常に濃厚で「美しかった」とすらいえます。もちろん、90年代から00年代初期のオリジネーターとして疾走していたカールステンも素晴らしいし、正直、本当に大好きだが、「05年以降」の「成熟と革新」の両方を生きる彼の音楽家として疾走もまた、とても素晴らしいと思うのです。


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[CD]Alva noto『FOR』

FOR 1+2

FOR 1+2

99年から05年の間に制作された、様々なプロジェクトや人物へ捧げた楽曲を収録をしている。これまでのグリッド&リズムな作風から一転し、アンビエント/ドローンなトラックが中心になっている。続くxerroxシリーズへの予兆を感じさせる重要作。06年。
※写真は、「FOR1」+「FOR2」2枚組日本盤(2010)です。


[CD]Alva Noto『FOR2』

For 2

For 2

前作から数年をおいてリリースされたプロジェクト・シリーズの第二弾。サウンドの幅はさらに広がり、ドローンからフィールド・レコーディング、そしてミニマルな旋律まで「音楽家」としてのカールステン・ニコライのアルター・エゴが次々に表出されていく。10年。


[CD]Alva Noto『Xerrox Vol.1』

Xerrox 1

Xerrox 1

現在も継続中のノン・ビート・アンビエント・プロジェクト第一弾。その名のとおりコピーを主題・題材とした作品だが、その薄い電子音の層の重なりは実に繊細。正に空気を変える音響。00年代ノイズ/アンビエント作品として出色の完成度。07年。


[CD]Alva Noto『Xerrox Vol.2』

Xerrox 2

Xerrox 2

ティーブン・オマリーやマイケル・ナイマンの音源サンプルを使い、さらにドローン/ロマンティック化した第二弾。音の層はダイナミック・クリアに生成と分離を繰り返し、まるで自然現象のようなノイズ/アンビエント作品に仕上がっている。09年。


[CD]Alva Noto『Unitxt』

Unitxt

Unitxt

グリッディなビートにポエトリー・リーディング。縦の線のリズムが言葉によって絶妙にズラされていく快感。つまりはニュー・グリッド・リズム・システム。そして後半の電子音響のイズの饗宴と炸裂。2年前より今こそ聴きたい電子音響のニューフォーム。08年。


[CD]Alva Noto + Ryuichi Sakamoto『Insen』

Insen

Insen

コラボ第2作目。ピアノ+電子音のフォームを生んだ前作から3年、さらに洗練されたトラックを披露した2作目。その分、1作目の互いに拮抗するようなスリリングな瞬間は控えめ。しかし完成度は高い。05年。


[CD]Alva Noto + Ryuichi Sakamoto『Revep』

Revep

Revep

3作目はEP。ピアノと電子音響の融合はまたも進化。ピアノは電子音響に融解し、電子音響はピアノと融合する。互いに拮抗しあう関係から一つの音(響)を追求するようなフォームに。溶け切った「戦メリ」が凄い。06年。


[CD+DVD]Alva Noto + Ryuichi Sakamoto+Ensemble Modern『utp_』。

utp_(初回生産限定盤) [DVD]

utp_(初回生産限定盤) [DVD]

電子音響+生楽器の融合の到達点だ。アンサンブル・モデルンの特殊奏法は、カールステンの電子音響の持続と見事に融解。もちろん教授によるコンポジションや極度にミニマルな演奏も最高に素晴らしい。05年以降、カールステンのグリデッィでありつつも、横の流れを意識した電子音響はここに最初の頂点を迎えたのではないか。個人的にはこの数年で聴いたCDの中でもっとも執着している一作。傑作。08年。


[CD]Aleph-1『Aleph-1』

aleph-1

aleph-1

数学者ゲオルク・カントール「無限集合濃度」理論に、その名の由来を持つカールステン・ニコライ別名義作品。その柔らかくも幾何学ミニマリズムは、どこかインドのタブラのような官能性すら感じる。まさに極上の"眠れない"アンビエント作品。これぞ隠れた傑作。08年。


[CD]SIGNAL『robotron』

Robotron

Robotron

carsten nikolai、olaf bender、frank bretschneiderのユニットは、クラフトワークへのオマージュ!マシニックなリズムに、微細なノイズ、ヴォイス。徹底的に機械的なのに、肉体的なファンクネスも感じる。07年。