ゼロ・サウンド・テクスチャー

ゼロ年代中期のエレクトロニカ・アルバムの100作レビュー。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第9回

●81枚目から90枚目。アンビエント/ドローン系列の作品を集めました。

●今回は所謂「大物」音楽家が中心。彼らの「00年代中期におけるドローン/アンビエント的活動」の側面として、です。

●「ミッドゼロ」のある部分を「Taylor Deupreeの時代」と括るのも可能かも知れない。00年代はミニマリズムが非常に繊細/先鋭化した時代であり、その重要な部分をTaylor Deupreeが担っていたとも思えるからだ(ポップ/ミニマル)。実際、Deupree以外のアルバムも(結果的に、だが)12K作品が多くなった。


●次回は100枚目。とうとうラスト10枚。


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[CD]Taylor Deupree & Kenneth Kirschner『Post_Piano 2』

Kirschnerのピアノ曲を元にDeupreeが作曲した3曲を、互いにエディット。その結果、ピアノの音は澄んだ空気のような音響/持続音に変化した。圧倒的に美しい作品。12K。05年。


[CD]Mirror『Still valley』

Andrew Chalk、Christoph Heemann 、Jim O'RourkeらによるMirror。透明な持続音に、細やかな音が重ねられていくドローン作品だ。光と空気のような音響彫刻。02年から04年の音源を収録。アナログ盤は05年(CDは06年リリース)。


[CD]Taylor Deupree『Northern』

まさに11月の光景のような音響作品。スウィートというよりはビターな響き。ブルックリンからニューヨーク郊外へと引っ越したDeupreeの日々の記憶の集積か。その繊細な音の持続は、ある意味、Deupreeの集大成。当然12K。06年。2年後にリイシュー。


[CD]Mika vainio 『revitty』

Pan SonicのMikaがCOHのレーベル、wavetrapよりリリースしたソロ。「引き裂かれた・引きちぎった」という意のアルバムタイトル通り、ノコギリ轟音サウンドとなっている。しかしその中にも繊細な空気感も。まさに轟音=沈黙。06年。


[CD]William Basinski『Variations for piano&tape』

Variations for Piano & Tape

Variations for Piano & Tape

80年代初期にBasinskiが録音したというテープ作品。テープ独特の歪んだ質感がノイズのように、鼓動のように響き、簡素なピアノの音色を美しく壊していく。まさに決壊する記憶。44分1曲。06年。


[CD]Giuseppe ielasi『AUGUST』

August

August

イタリア人サウンドアーティストGiuseppe ielasiの4thアルバム。リリースは12K。柔らかいドローン、ギターやピアノなどの楽器、電子音響が見事にレイヤーされていく。その緻密かつ大胆なコンポジションが圧倒的。07年。


[CD]Taylor Deupree & Christopher Willits『Listening Garden』

04年にYCAMで展示されたインスタレーションをベースにしたアルバム。実際の展示で流れた音源と、観客の声、雨音などが非常に繊細にレイヤーされた美しい音響作品。12Kよりリリース。07年。


[CD]Willits + Sakamoto『Ocean Fire』

Ocean Fire

Ocean Fire

Christopher Willitsと坂本教授のコラボレーション作品。教授のピアノをウィリッツが加工し、壮大なドローン作品を生みだしている。海に溶け切ったような音/響が素晴らしい。絵画的な音響作品といえよう。日本盤はcommmons。海外盤は12Kよりリリース。07年。


[CD]ANGEL『KALMUKIA』

Kalmukia

Kalmukia

Ilpo Vaisanen、Dirk Dresselhaus、Hildur Gunadottirらのエレクトロニクスとギターとチェロによる突き抜けたかのようなハード・ノイズ・ドローン・サウンドが圧倒的。リリースはEditions Mego。08年。


[CD]Kenneth Kirschner『Filaments & Voids』

Filaments & Voids

Filaments & Voids

Taylor Deupreeとのコラボレーションでも有名なニューヨークのサウンドアーティストの2枚組アルバム。ピアノや弦の音を加工し繊細なエレクトロ・アコースティック/ドローンを生みだしている。Taylor Deupree & Kenneth Kirschner『Post_Piano 2』(05年)からの関連/継続性も重要だろう。ジャケット写真はTaylor Deupreeによるもの。リリースは12K。08年。