ゼロ・サウンド・テクスチャー

ゼロ年代中期のエレクトロニカ・アルバムの100作レビュー。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第10回

●今回で91枚から100枚目になりました。しかしプラス一枚で101枚。

●第10回は、「2009年のリリース作品」を上げてみます。まだ1年前のことですが、これほどまでに激動・激変の時代ですと、随分と昔のことに感じられてしまいます。でもたった1年前のことなのです。この時間感覚の変化。そう、振り返ってみるまでもなく、09年は「変化の気配」が圧倒的に感じられた時代でした。

●「電子音響/エレクトロニカ」のリリースでは、「2009年」には三つの世代からの作品発表が相次いで起こった印象があります。「00年代」を中心に遡行するかのように、「90年代」から「80年代」を総括するような動きが見られたのです。

●それも、どの世代にもドローンテイストがみられたことが、大きな注目に値することでしょう。時間が圧縮しつつ解凍されるような09年ならではの時間感覚の変容が、音楽の側にも浸食してきたといえるかもしれません。

●70年代後期〜80年代(90年代頭まで)に活動を開始したニューウェイブなベテラン勢の09年新作。90年代後期から00年代初頭に活動を始めた電子音響/エレクトロニカ勢の09年新作。そして00年代後期(最近)に活動を始めた若手勢の09年新作。それらの作品リリースが、同時に一気に進行したのです。

●今回は、その三つの「世代順」に(その括りの中はアルファベット順に)並べてみました。ちなみにAlva noto『Xerrox vol.2』はノト特集の回に取り上げましたので今回は省いていますが、「二番目の世代」に加えられます。

●こうしてみると「2009年」という時の「特殊性と凄さ」が見えてくると思います。過去30数年におよぶ実験的ポップミュージックの「新作」が一堂に会したのですから。これはいささか途方もない(もしくは必然的な)事態ではないでしょうか。CD終焉がはっきりと目前に見えてきた「2009年」に、三つのディケイドの総括が行われたのです。

●これらの作品に、メジャーなベテラン勢の作品として、坂本龍一『out of noise』、デイヴィッド・シルヴィアン『マナフォン』を加えてみると、さらに「09年の総括性」が浮き彫りになるでしょう。また、そこにビートルズのリマスター盤、細野晴臣の歌謡曲ボックスなどの「リイシュー・ボックス」を両側から挟みこむように置いてみるのも一興かと思います。

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[CD]Bruce Gilbert『Oblivio Agitatum』

Oblivio Agitatum

Oblivio Agitatum

09年にeditions megoからリリースされたブルース・ギルバートのソロ・アルバム。世界の終わりに鳴り響くような硬質なノイズ/ドローンサウンドが展開されていく。近年のeditions megoは09年のオリジネイターたちの新作リリースから、10年の若手先鋭的な音楽家のリリースへと連鎖・継続している。09年。


[CD]CINDYTALK『The Crackle Of My Soul』

Crackle of My Soul

Crackle of My Soul

14年ぶりの新作はeditions megoから。硬質なノイズの持続/連鎖が酸性雨のように鳴り響く傑作だ。しかもあのJLG『愛の世紀』からサウンドをサンプリングしている曲もある。ジャケット画のようにアトモスフィアな世界=音響。09年。


[CD]Daniel Menche『Kataract』

Kataract

Kataract

ノイズの大物Daniel Mencheが、09年にeditions megoからリリースした作品。アメリ北太平洋岸北西部の滝の音を録音・加工した本作。そのダイナミックな音響/電子音が自然現象のように大きなうねりを描く。呑みこまれる大音響の奔流!


[CD]Robert Hampson『Vectors』

Vectors

Vectors

元LOOP/MAINのRobert Hampson初のソロアルバムは、新時代の電子音楽/ミュージック・コンクレート。微細な電子ノイズが生物のように音のカタチを変形させていく。録音にはあのGRMが関与している。レーベルはtouch。09年。

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[CD]Florian Hecker『Acid In The Style Of David Tudor』

Acid in the Style of David Tudor

Acid in the Style of David Tudor

Hecker、初のソロ・アルバム。超ハイファイな電子音響が伸縮するかのように音空間を蠢く。ある意味ではSND『Atavism』と対をなす作品ともいえる。ここにあるのは伸縮するかのような物質的な電子音響の快楽だ。チュードアへのオマージュらしいアルバム・タイトルも面白い。editions mego。09年。


[CD]Mokira『persona』

Persona

Persona

スウェーデンのandreas tillianderの09年作品。長い活動歴のMokiraも近年ではドローン化。本作では幽玄なドローンが鳴り響く中、クリック・ハウスのミニマルな痕跡も僅かに聴こえる。そう、「クリック&グリッチからドローンの時代へ」だ。リリースはtype。


[CD]SND『Atavism』

Atavism

Atavism

鼓膜を刺激するビートがハイファイすぎて物質感さえ持ってしまったような驚異のマテリアリズムに耳が震える。圧縮された密度によって音楽=音響の領域を拡大していく感覚。その上コードはどこかラグジュアリー。まさにテクノ(ロジカル)・フュージョン・ハウス。Ranster-noton。09年。


[CD]Tim Hecker『Imaginary Country』

Imaginary Country

Imaginary Country

96年より活動を開始したカナダ人音楽家の09年作品。淡く、ほんの少し刺激的なノイズやシンセ音が幽玄に折り重なり合いながら、壮大な音響空間を形成していく。まるで電子音によるシューゲイザー。規則的なベース音が耳を引きつける。レーベルはKranky。

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[CD]Hildur Gudnadottir『without sinking』

Without Sinking

Without Sinking

アイスランドの女性チェリストのソロアルバム。弦の音に、さまざまなエレクトロニクスが融合。ドローン的な非=運動性というよりは、エモーショナルな音響空間である。どこかシネマティックな音楽が奏でられていく。touch。09年。


[CD]SOLO ANDATA『Solo Andata』

Solo Andata

Solo Andata

「2009年の12K」の最高傑作。オーストラリアの二人組ユニットのアルバムである。ドローンや重層的なフィールド・レコーディング、そしてチェロやギターなどを繊細に重ねながら、幽玄で美しいアンビエントを生みだしている。森の中に響く薄明かりのような電子音響。まったくもって素晴らしい。シングルには坂本龍一氏のリミックスも収録。09年。


[CD]TOMASZ BEDNARCZYK『LET'S MAKE BETTER MISTAKES TOMORROW』

Let’s Make Better Mistakes Tomorrow

Let’s Make Better Mistakes Tomorrow

本作も「2009年の12K」において傑出した出来を誇るアルバムだ。緩やかなドローン&フィールド・レコーディングが耳を優しくクスグル。まさにジャケットのように清冽な音響作品。もしくは空と水の電子音響。こちらも傑作。09年。