ゼロ・サウンド・テクスチャー

ゼロ年代中期のエレクトロニカ・アルバムの100作レビュー。

ゼロ・サウンド・テクスチャー/第1回

●00年代の音楽を極私的に振り返る、「ゼロ・サウンド・テクスチャー」です。

●主に05年から08年あたりまでの作品を中心に書いていこうと思います。私的には、エレクトロニカは、04年と09年あたりに大きな地殻変動/総括が起きている印象があります。では、その間の時期(つまり05年から08年)に、どんなディスクがあって、自分は何を聴いてきたかを振り返ることで、04/09問題をもう一度総括できないか、そしてひいては、00年代の音楽/音響を歴史化することにならないかと思ったのです(大げさですね・笑)。まだ直近過去であるがゆえに「歴史化」していないですからね。

●とはいえ、音楽/ディスクは、出来る限りランダムに、出来れば、それほど有名じゃないものも(笑)、気楽にセレクトしていきます。00年代の中盤、いわば「ミッド・ゼロ」の音楽/音響は結構、良かったんだじゃないかという気持ちで。

●1回、10枚ずつセレクトしていこうと思います。

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[CD]Jan Jelinek『Kosmischer pitch』

Kosmischer Pitch

Kosmischer Pitch

05年リリースの3rdアルバム。ジャズのサンプル・ループを原型を留めないほどに加工しトラックを構築しきた彼が、本作では驚愕のジャーマン・ロック化。しかし、このサイケな音像もサンプルで作られているというのだから凄い。キャリア中でも重要な一枚ではないか。音響から音韻を作り上げた音響先品。


[CD]the boats『TomorrowTime』

Tomorrow Time

Tomorrow Time

06年。ネオアコエレクトロニカ。手作り感(?)に満ちた電子音の入り方が気持ち良い。00年代中盤には「00年代初頭のカーパークやモー・ミュージックから影響を受けた」(と思える。本当のところは知りません・笑)、いわゆる「90年代のインディーロック/ギター・ポップ」経由のエレクトロニカが(地味に)リリースされていた。それが独特の「甘くセンチメンタルな空気(シーン?)」を形成していた、と思うのだが……。


[CD]Helios『Eingya』

Eingya

Eingya

06年リリースの2nd。Heliosはやはりこの盤だろう。これ以降は洗練はしたものの、その分イージー・リスニング化したのではないか。だが本盤には胸を打つ感傷的な甘さと音響的な硬さが共存しているのだ。センチメント・エレクトロニカの傑作。ジャケも名作!


[CD]Mountains『Sewn』

06年にリリースされた2nd。エレクトロニクスに、ギターのアルペジオ、ドローン、フィールド・レコーディングされた音響などが、慎ましくも、美しくミックスされた作品。森の空気のようなアブストラクト/エクスペリペンタル/インプロヴィゼーション。清冽サイケデリック


[CD]REMINDER『Continuum』

Continuum

Continuum

タウン・アンド・カントリーのメンバーでもあったジョシュア・エイブラムスによる音響ヒップホップ。音響的なエレメントが複雑かつミニマルに鳴り響きながらも、グルーブのしっかりとした強靭なブレイク・ビーツとなっている。06年リリース。


[CD]Frivolous『Midnight Black Indulgence』

Midnight Black Indulgence

Midnight Black Indulgence

ハーバード・フォロワーなFrivolousが07年にScapeからリリースした作品。ハウシーなトラックを基本にラグジュアリー&ラウンジ、エキゾチカで、しかも、どこかニセモノっぽいフェイクさが魅力的だ。細野晴臣とアトム・ハートがYMOを結成したらこうなった?かのような音楽(ほめすぎですね)。


[CD]Hauschka『Room To Expand』

Room to Expand

Room to Expand

ミニマルでピアノに、センスのいいストリングス・アレンジ。プリペアド・ピアノもポップに活用。そう、ミニマルとポップは矛盾しないで共存する。その按配が実に瀟洒だ。ファニチャーのように、身近に鳴っていてほしい音楽。ライヒよりもケージ。07年リリース。


[CD]Opiate『Objects For An Ideal Home』

OBJECTS FOR AN IDEAL HOME

OBJECTS FOR AN IDEAL HOME

01年の作品だが、disques cordeから07年リイシューされた。00年代エレクトロニカ初期の名盤である。柔らかい電子音とちょっとだけ複雑なリズム・プログラミングが素晴らしい。そのビートに遠くドラムン・ベースの残響も聴こえる。90年代のアフターアワーズ


[CD]Small Sails『Similar Anniversaries』

Similar Anniversaries

Similar Anniversaries

イーサン・ローズ在籍のエレクトロニカ・ポストロック・バンド。センチメンタルな楽曲と軽やで大胆なサウンドのバランスが素晴らしい。イーサン・ローズのハミング・ヴォーカルも良い具合。ネオアコ/フォーキー・トロニカの秀作だ。pupa好きにもオススメ。07年作品。


[CD]Sven Kacirek『The Palmin Sessions』

ジャズ・ドラマーSven Kacirekによる作品。07年リリース。グラスを叩く音などの細かいパーカッションを重ねて、手動IDMサウンドを展開している。その涼しげにしてストレンジな音響は実に面白い。数曲あるボーカル曲も良い。ミッド・ゼロの隠れ名盤。